社労士業務のAI活用|転記・ファイル整理・給与計算チェックをClaude Code(クロードコード)・Codex(コーデックス)で現場検証
「士業のAI活用」と聞くと、ChatGPTで文章を作る話を思い浮かべる方が多いと思います。でも、社労士をはじめとする士業の現場でいちばん時間を奪っているのは、文章作成ではありません。人が画面を目で見て、別のソフトに手で転記し、紙に印刷して目視で照合する——こうした地味な手作業こそ、AIに任せる余地が大きい領域です。
このたび、社会保険労務士事務所エスパシオ(株式会社エスパシオ)の下田直人さんにご紹介いただき、リード社会保険労務士法人の高松歩代表をお訪ねしました。社労士業務の中で実際に発生している手作業を、AIでどこまで効率化できるかを、その場でダミーデータを使って一緒に検証させていただいた記録です。
社労士業務のAI活用とは: クライアント側の人事システムと事務所側の業務ソフトの間で人が行っている「確認・転記・照合・ファイル整理」を、AIに手伝わせて効率化する取り組みです。社労士業務はシステム同士が分断され、人が間に入って手作業でつないでいる工程が多く、文章生成より転記・突合・帳票整理の自動化に大きな余地があります。AIに丸投げするのではなく、人が判断すべき部分は残し、下準備の作業をAIに任せるのが基本の考え方です。
なぜ社労士のAI活用は「ChatGPTで文章作成」では足りないのか
社労士の実務で発生している作業を分解すると、文章作成はごく一部だからです。
リード社会保険労務士法人でお話を伺うと、実際の現場では次のような作業が大量に発生していました。
- クライアント側の人事システムに入っている情報を確認する
- その情報を、事務所側の業務ソフトに転記する
- 給与計算の元データと、計算後のデータを目視で突合する
- PDFや帳票を見ながら、フォルダ名・ファイル名を整える
- メールでやり取りした個別事情を確認する
ここで効いているのが、クライアント側のシステムと事務所側のシステムが分断されているという構造です。システム同士がきれいにつながっていればいいのですが、現実には人が間に入って、確認・転記・照合をしている。この「人が手でつないでいる工程」こそ、AIの出番でした。
質問に答えるだけの対話型AIと、作業そのものを進める実行型AIの違いはClaude CodeとChatGPTの違いで解説しています。今回検証したのは、すべて後者の「手を動かす」使い方です。
検証1:画面の情報を読み取って、別タブへ転記する
1つ目は、ブラウザ上の画面をAIに読ませて、別のタブの画面に入力する流れです。
「片方の画面を見ながら、もう片方の画面に人が打ち込む」という、まさに転記そのものの作業を、AIに手伝わせるイメージです。ここでは「Claude in Chrome」というブラウザ拡張機能を使いました。画面の内容をAIが読み取り、別タブのフォームへ入力していきます。プロンプトは「右のタブに情報を転記してください」という一文だけです。
リード社会保険労務士法人のパソコンはWindows環境で、ブラウザはEdgeでしたが、今回はそのEdgeにClaude in Chromeの拡張機能を入れて、そのまま動かすことができました。EdgeはChrome用の拡張機能と互換性があるため動く形です。この拡張は実行前に確認を挟む設計になっていて、AIが何をしようとしているかを人が見てから進められます。なおClaude in Chromeは有料プランで使えるベータ機能で、公式に動作が保証されているブラウザはGoogle Chromeです。安定して使うならChromeが基本になります。同じブラウザ操作の自動化はThreads全自動化の記事でも競合リサーチの収集に使っています。
検証2:帳票PDFを読み取って、命名規則どおりにフォルダを整理する
2つ目は、PDFや帳票ファイルを読み取り、社員番号や帳票名をもとに、命名規則に沿ってフォルダを作成する作業です。
帳票を1枚ずつ開いて、中身を確認し、決められたルールでフォルダ名・ファイル名を付けていく。地味ですが、件数が多いと相当な時間を取られる工程です。これをClaude Codeに任せると、ファイルの中身を読んで、社員番号や帳票名を拾い、命名規則どおりにフォルダを作るところまで一気に進みました。
こうした「ルールは決まっているが手数が多い」作業は、AIがもっとも得意とするところです。Claude Codeが何かをまず知りたい方はClaude Codeとはを先に読むと、この検証がより具体的に見えてきます。
検証3:給与計算のチェック(元データと出力結果の突合)
3つ目は、給与計算のチェック業務です。
クライアントから受け取ったExcelデータと、給与計算ソフトから出力された結果を突合し、差分を洗い出す作業です。これまでは紙に印刷して、目で1行ずつ確認していた部分です。今回は、その突合をClaude Codeでチェック表にしていく方向性を検証しました(使ったのは実データではなく、すべてダミーデータです)。
人の目視は、件数が増えるほど見落としのリスクが上がり、時間もかかります。元データと結果の差分を機械的に洗い出してチェック表にできれば、人は「洗い出された差分が妥当か」の判断に集中できます。
この給与計算チェックをはじめ、転記・突合・集計といったExcel作業の任せ方はExcelのAI自動化にまとめています。
なお、今回の3つの検証はClaude Codeと「Claude in Chrome」で行いましたが、転記・突合・ファイル整理といった作業は、AI Crewが扱うClaude Code・Codexのどちらでも進められる種類の仕事です。業種別にどんな業務を自動化しているかは受講生の実績6選にまとめています。
個人情報をどう扱うか(ここは保守的に進める)
ここまでが「できること」ですが、社労士業務はマイナンバーを含む個人情報を日常的に扱うため、できるかどうかと同じくらい、どう扱うかが重要です。
実際に詰めるべき論点は、少なくとも次の3つがあります。
- どの情報をAIに扱わせ、どの情報は渡さないのか
- 有料版・チーム版・データの保持設定をどうするのか
- クライアントとの契約や、利用の説明をどうするのか
会社の機密や個人情報を扱うなら、入力が学習に使われない商用プラン(Team・Enterprise)を選ぶ、作業フォルダに関係のない機密ファイルを置かない、といった土台があります。この考え方はClaude Codeのセキュリティで公式仕様に沿って整理しています。ただし、どんなAIツールも「絶対に安全」とは言えません。
そして士業の場合、守秘義務・個人情報保護法・顧問契約の内容によって、許される範囲は事務所ごとに変わります。ここまでの一般論だけで判断せず、自社の規定や契約に照らした可否は、必要に応じて弁護士や情報システムの専門家に確認してください。本記事は法的な助言ではありません。AIの活用は、まず扱う情報の範囲を限定したところから始めるのが安全です。
人が判断すべきところは残す
今回の訪問を通じて改めて感じたのは、すべてを人が手作業で続けるのも、すべてをAIに丸投げするのも、どちらも現実的ではないということです。
最終的な判断や、クライアントへの説明責任は人が担う。その手前にある転記・照合・ファイル整理・下準備といった作業を、AIに任せる。この線引きができると、士業のAI活用は単なる流行りではなく、現場のリアルな業務改善に直結します。社労士業界に限らず、システムが分断されていて人が間に入っている業務には、同じ可能性があると感じました。
社労士以外の税理士・行政書士・弁護士にも共通する業務別の使いどころは士業のAI活用マップに整理しました。
この検証の先にある「事務所の分身」という到達点
ここまでは個々の作業をAIに手伝わせる話でしたが、社労士事務所にとっての本当の価値は、作業単位の効率化のさらに先にあります。今回の3つの検証は、その入口にあたる部品です。
到達したい状態を、before → afterで描くとこうなります。
- before: 顧問先ごとの対応方針は所長やベテランの頭の中にあり、手続きの進め方も過去の判断も、聞かないと分からない。スタッフに手順を教えても、少し変わった案件が来るとまた所長に質問が集まる。事務所の業務が“人に貼り付いている”状態です。
- after: 事務所の判断基準・過去のやり取り・手続きの型をAIに読み込ませておくと、転記も帳票整理もチェックの下準備も、毎回ゼロから指示しなくても近い品質で進む。所長は「洗い出された差分が妥当か」「この顧問先にどう説明するか」という、人にしかできない判断に時間を戻せる。自分の判断基準を覚えた“事務所の分身”が下準備を回してくれる状態です。
この到達点は、たまたまAIが便利だからたどり着くものではありません。自分の事務所のやり方を再現できるかが分かれ目です。ほかの手段と比べると、その理由が見えてきます。
- 対話型のChatGPTに都度質問する形だと、質問した分だけ答えは返りますが、事務所の判断基準はAIの側に残りません。毎回ゼロから状況を説明することになり、壁打ちの域を出にくい。
- 人を1人雇う方法もありますが、採用の難しさ・教育コスト、そして「またその人に業務が貼り付く」属人化の再生産という課題が残ります。
- 汎用の労務向けSaaSは、手続きそのものは効率化してくれても、“この事務所の判断基準”までは再現しません。
対して、Claude Codeのような実行型AIに、自分の事務所の判断基準・過去資料・手続きの型を読み込ませて育てていく形なら、毎回ゼロから考えなくていい“自分の事務所仕様の業務基盤”を、事務所の中に少しずつ作っていけます。今回検証した転記・帳票整理・チェックは、その業務基盤を組み上げる部品にあたります。
そして、この作り方がいちばん効くのは、自分の事務所の業務フロー・判断基準・過去資料を自分で握っている士業です。何をどう判断しているかを言語化できるのは、日々その判断を下している本人だけ。だからこそ、AIに移植して“分身”に育てていける。ここは外注や汎用ツールでは埋めきれない、士業自身の強みがそのまま効いてくる領域です。
ただし、社会保険・労務は法令と守秘義務が絡む領域です。どこまでを分身に任せ、どこからを自分の判断として残すかの線引きは、事務所ごとの規定と、社労士自身の最終判断に委ねられます。仕組みは“下準備を任せて、判断を人に戻す”ために作るのが基本です。
リード社会保険労務士法人の皆さま、貴重なお時間をありがとうございました。
同じように士業の事務所をやられている方で、「自分の事務所で何ができるかな」と興味が湧いてきたら、無料セミナーに参加されると良いかもしれません。