オントロジーとは|AIエージェントに「会社の言葉」を教える仕組みを専用ツールなしで作っていた実例
最近、AIエージェント関連の記事やSNSで「オントロジー」という言葉を見かけるようになりました。難しそうな響きですが、身構える必要はありません。オントロジーの整備は、専用ツールの導入からではなく、会社で使う言葉の定義をファイルに書くことから始められます。
オントロジーとは 扱う対象の概念(言葉・モノ・データ)と、概念どうしの関係を、明示的に定義したものです。もともとは哲学の「存在論」に由来する言葉で、情報科学では研究者トム・グルーバー氏が1993年に示した「概念化の明示的な仕様」という定義が広く引かれます。AIエージェントの文脈では、会社の言葉・データ・ルールの定義を、人とAIが共有できる形に書いたものを指します。
実は、みやっち🧑💻の会社では、この言葉を意識する前から同じことを自然にやっていました。この記事では、オントロジーがAIエージェントの文脈で注目される理由と、専用ツールなしで自然に出来上がっていった実例を紹介します。
なぜAIエージェントの文脈で「オントロジー」が注目されるのか
理由はシンプルで、AIエージェントは、言葉の解釈がずれると行動もずれるからです。
人に仕事を頼むときと同じです。「顧客リストをまとめて」と頼んだとき、「顧客」が契約中の相手だけを指すのか、過去の問い合わせ全部を含むのかが共有されていないと、出てくる成果物は期待と違うものになります。人間なら途中で「顧客ってどこまでですか?」と聞き返してくれますが、AIエージェントは自分の解釈のまま最後まで作業を進めてしまうことがあります。任せる仕事の量が増えるほど、この「言葉のずれ」が実害になります。
この問題への答えとして注目されているのがオントロジーです。たとえばデータ分析大手の米Palantir(パランティア)社は、自社プラットフォームの中核にOntologyという名前の層を置き、公式ドキュメントで「組織のデータ資産を、設備・製品・注文といった現実の業務対象と結びつける、組織のための運用レイヤー」と説明しています。「オントロジー パランティア」という検索語が出てくるのは、この文脈です。
こう聞くと大企業向け製品の話に見えますが、原理は一人の会社でも変わりません。AIに任せたい仕事があるなら、その仕事で使う言葉の定義を、AIが読める場所に書いておく。これだけです。
みやっち🧑💻の会社で「自然に」できていたオントロジーの実例
みやっち🧑💻は2026年1月から、会社の情報を多数のMarkdownファイル(テキストファイルの一種)の集まりとして運用し、Claude Code・Codexというエージェントに読み書きさせています。社内ではこのファイル群を「AIカンパニー」と呼んでいます。
このAIカンパニーの一部であるこのサイトには、サイト全体のコピーとブログ記事に共通する「表現ルール」という14項目の決まりごとがファイルに書いてあります。あとから振り返ると、これがまさにオントロジーでした。実物から4つ紹介します。
- 用語の定義を1か所に固定する — たとえばVibe Codingという言葉の定義は、AIの記憶で書かせません。提唱者(アンドレイ・カルパシー氏)・時期(2025年2月)・意味(自然言語でAIに伝え、動作を確かめながら対話でアプリを形にする開発スタイル)をルールファイルに固定し、記事を書くたびに毎回そこから引かせます。AIの記憶に任せると、書くたびに微妙に違う定義が生まれるからです
- 表記を統一し、定義の優先順位まで決める — Claude(Claudeを提供するAnthropic社のProプラン)の料金は、当サイトでは「月額22ドル」と書きます。公式表示は税抜20ドルですが、日本からの利用は税込で22ドルになるためです。面白いのはここからで、公開前に記事を点検するAIのファクトチェック係が「公式は20ドルだから22ドルは誤り」と指摘してきても直さない、とルール側に明記してあります。どの情報源がどの文脈で優先されるかまで決めておくと、AIどうしの見解が割れたときに毎回議論せずに済みます
- 定義には適用条件も書く — 「講座の説明ではClaude CodeとCodexを併記する」というルールを機械的に全文へ適用すると、たとえばClaudeの料金の話にCodexが混ざって文章の論理が破綻してしまいます。そのためルール自体に「料金の文脈では併記しない」という適用条件が書き足されています。定義は、壊れそうな箇所を先回りして書き足しながら育てていくものです
- 事実の照合先を1ファイルに決める — 講座について書くときは「講座プロダクト定義」というファイルと照合し、そこに「ないもの」を在るかのように書かない、と決めています。AIは聞こえのいい一般論で行間を埋めようとすることがあるため、事実の正本がどのファイルかを固定しておくのです
重要なのは、これらを「オントロジーを作ろう」と思って作ったわけではないことです。AIに書かせる量が増えるほど、言葉のブレが誤った記事・レビューの差し戻し・手戻りという実害になり、ブレるたびに定義をファイルへ書き足していったら、自然にこの形になっていたというのが実際の順序です。
定義は「書くだけ」では守られない
オントロジーというと「立派な定義集を作ること」がゴールに見えますが、運用してみると本体は別のところにありました。定義は、守らせる仕組みと維持する運用がセットになって初めて機能します。
みやっち🧑💻のブログ運用では、こう分担しています。
- 機械的に判定できるルールは、自動チェックで止める — サイトを組み立てる(ビルドする)たびにスクリプトが全記事を検査し、表記ルール違反を見つけるとビルド自体を止めます。正当な例外は、理由付きで例外リストに登録した場合だけ通します
- 文脈判断が要るルールは、AIのレビュー係が見る — 「併記すべき文脈か」のような機械では判定しづらいルールは、公開前に3つのAIレビュー(安全・事実・一次情報)が点検します
- 実態が変わったら、定義ファイルを先に直す — 現実とファイルがずれたまま放置すると、AIは古い定義を根拠に動き続けます。変更はまず定義の正本から、が鉄則です
言い換えると、オントロジーは辞書というより就業規則に近いものです。作って配るだけでは守られず、チェックの仕組みと改訂の運用があって初めて生きます。
言葉がそろうと、AIの動きがそろう
この積み重ねの効果は、日々の運用の変化として表れました。
言葉の定義がファイルになっていないうちは、AIに書かせた文章の用語や表記のブレが、そのまま誤った記事・公開前レビューでの差し戻し・書き直しという実害になっていました。定義と自動チェックが積み上がったいまは、毎朝のブログ公開が、定義ファイルと機械ゲートを土台に、ほぼ自動のルーティンとして回っています。人が張り付いて言葉を直し続けるのではなく、仕組みが言葉をそろえてくれる状態です。
これは、汎用の便利ツールを1つ導入して得られる状態ではありません。自分の会社の言葉の定義は、自分の会社にしか書けないからです。逆に言えば、書きさえすれば、ファイルを読み書きできるAIエージェントはそれを毎回参照しながら仕事をするようになります。自分専用の分身が育つかどうかは、モデルの賢さより、この定義の蓄積で差がつきます。
専用ツールは要らない——Markdownとgitで始める3ステップ
オントロジー構築をうたう製品もありますが、士業や一人社長がいきなり導入する必要はありません。テキストファイルと、それを読み書きできるAIエージェント(Claude Code・Codex)があれば成立します。始め方は3ステップです。
- 同じ説明を2回したら、定義をファイルに書く — 「顧客とはこの範囲」「うちの読者はこう呼ぶ」と、AIに口頭で説明した内容をその場でテキストファイルに移します
- 言葉の正しい置き場所を1つに決める — 同じ定義をあちこちに書くと、直し漏れで食い違いが生まれます。この考え方はSingle Source of Truthと呼ばれ、CLAUDE.mdの記事で詳しく解説しています
- 実態が変わったら、定義ファイルを先に直す — 料金が変わった、サービス内容が変わった、という日に、その場で正本を上書きします
どの情報をどうAIに渡すかの全体像はコンテキストエンジニアリングの記事で、日々のナレッジに何を書くかはナレッジ管理の記事で扱っています。
よくある質問
オントロジーとナレッジグラフの違いは?
オントロジーは「概念と関係の定義(設計図)」、ナレッジグラフは「その設計図に沿って実際のデータどうしをつないだ網」という関係で整理されます。たとえば「受講生とは何か・講座とどう関係するか」を決めるのがオントロジーで、「Aさんは6月開講の講座を受講した」のような個々のデータのつながりの集まりがナレッジグラフです。
パランティアのオントロジーとは何ですか?
Palantir社が自社プラットフォームの中核に置く仕組みの名前で、公式ドキュメントでは、データセットやモデルといったデジタル資産を、設備・製品・注文といった現実の業務対象と結びつける「組織のための運用レイヤー」と定義されています。同じ「オントロジー」という言葉の、大企業向けの実装例です。
哲学の「オントロジー」と同じ言葉ですか?
由来は同じです。哲学では「存在とは何か」を扱う存在論を指します。情報科学がこの言葉を借りて、「扱う世界に何が存在し、どう関係するかを明示的に書き出したもの」という意味で使うようになりました。
非エンジニアでも作れますか?
作れます。この記事で紹介した表現ルールも、実体は日本語で書いたテキストファイルです。プログラミングの知識は要らず、「AIに2回同じ説明をしたら書き残す」から始まります。書き方の型はCLAUDE.mdの記事を参考にしてください。
オントロジーという言葉は新しくても、やることは「会社の言葉をAIに教え、ファイルとして積み上げる」という地道な運用です。AI Crewでは、この「自分の業務の言葉をAIに教える」仕組みづくりを、スキル(SKILL.md)作りなどを通じて実際に画面を触りながら身につけていきます。気になる方は、まず無料セミナーでお会いしましょう。




